楽園追放Ⅰ 僕の儚くも浅ましきイデア
【 試し読み 86ページ! 】 春、四月。高校生になった皆守紘(みなもりひろ)は、学園に向かう途中で、白銀の少女パンドラに出会う。 「シャロンをたすけて!」 連れて行かれたのは、とても現実とは思えない場所――暗雲がたれこめ、無数の髑髏がちらばり、悪鬼羅刹が跋扈する黄金の異世界だった。 そこにいたのは月光の涼やかさと、月光を映しとる鋭刃の凄絶さを、相矛盾することなく兼ね備えた《傲慢の狩人》カイン。そして彼に嬲られる《矜持の騎士》シャロンだった。 奮闘もむなしく、カインは少女ふたりを殺害する。そのさまをただ見ているしかできなかったヒロは、思いの丈をただ叫ぶ。 「誰かが死ぬのは――もう嫌だッ!」「……なにィ!?」 少年はずっと祈っていた。願っていた。彼になるまえからも、彼になってからも。あまりに儚く、あまりに浅ましい理想を、ずっと抱きしめて生きてきた。その祈りが、少女たちの命をよびもどす。三人はちからをあわせ、激戦のすえにカインを打ち破る。黄金の世界は消え、現実の世界が還ってくるかに思われたが――。 約12万字 / 491頁 / スマホでの閲覧推奨
読者の感想
作り込まれた世界観は、神話の闇を映し出す
神話といえば、煌びやかなものだ。
英雄譚や美談。神々の物語は美しく後の世へと残す――その裏側に密やかな闇を含みながら。
この作品は、その闇を描き出すことで、絶望的な世界観を表している。
全ての登場人物は信念を掲げて生きながらも、それと共に薄暗い過去も抱えている。
それが描き出す葛藤に、ついつい作中に引き込まれて行ってしまう。
それを肉付けするのは、魔術詠唱。本格的な詠唱と共に放たれる魔術は、火炎や雷撃などではない。
信念や悪意が体現したかのような、まさしく、神話時代の魔術。
それらの応酬は思わず息を呑む迫力であり、その魅力に引き込まれてしまう。
作品を通じて、神話への造詣が深いことが伺え、神話の別の解釈を思わず考えさせられる。
神話が好きな方、魔術が好きな方はぜひとも読んでいただきたい作品だ。